飲食店と保健所の良い関係とは

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保健所というものは、時に煩わしい行政機関ではあります。しかし、店側にとっても役立つ存在であるという意識改革をすること、一方で自分たちの振る舞いを顧みるといった謙虚な気持ちになることが、最も大切なのではないでしょうか。互いに良好な関係から、さらに進んで連携、協力体制といった、より良い関係に発展させていくことが重要です。

念願であった自分のお店を持ちオーナーとして立ち振る舞う事になると理想と現実のギャップを感じる事は多々あります。取り分けて強く感じる事は行政機関からの認可を申請する時ではないでしょうか。特に飲食店と最も関わりの深い保健所への認可申請は、手続きが複雑かつ、細かいため多くの飲食店オーナーの頭を悩ませます。今回は、絶対に関わることになる保健所がどのような機関なのか、そしてオーナーは保健所とどのような関係を築くべきなのか説明させていただきます。

保健所のイメージは?

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保健所と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべるでしょう。子供の頃の予防接種などの怖い記憶、インフルエンザなどの感染症や伝染病対策といった、どちらかというと一般的には、ネガティブなものではないでしょうか。 飲食や外食に従事する人々にとっては、日頃接する機会も多いですから、様々な思いがあるでしょぅ。忙しい時にやってきては、ああでもない、こうでもないといった細々としたことを指摘したり、重箱の隅をつつくように店中をチェックしたり。せっかく効率よく回っている店内のオペレーションを台無しにされたりと、苦々しく思ったことも多いのではないでしょうか。

筆者も20年ほど前にお店をオープンする際、大変な思いをしました。フランチャイズ加盟店開業に先立ち、事前に必要な図面などを持って相談に行き、特に問題点を指摘されなかったことから、工事を施工し営業許可書申請までこぎつけました。しかし、その時、ダメ出しが入ったのです。「ビールサーバーの設置位置を変えなさい」、「ホールとキッチンの境にもう一枚ガラスの仕切りを設けること」、「キッチン内の手洗いの位置が不適切なので変えるように」、「消毒液の容器は壁に固定すること」等々。図面を見ればわかるであろう部分にまで修整を余儀なくされました。おかげで追加工事によるコスト増、オープン予定日の遅れが生じてしまいました。狭いキッチンに大きな手洗いを置いたものですから、ファストフード店にもかかわらず、食洗機が置けず、予定よりも多くの従業員を雇う羽目にもなりました。

その時、何のために保健所などという行政機関はあるのだろう、保健所の職員は何をしたいのだろう、と腹立たしく思ったことを今でも覚えています。ただ、その後時間が経つにつれ、税金を使ってまで設置する機関、職員にも何らかの存在意義や目的といったものがあるのだろうと考えるようにもなってきました。

保健所の目的・使命・役割とは?

保健所の設置目的や、その社会的使命、そして役割とはなにか、といったことを法律的な面も含めて、述べてみたいと思います。少し堅苦しい内容になるかもしれませんがおつきあいください。

保健所関連の法律

保健所やその職員の法律に関しては、古くは保健所法という名前の法律がありました。現在は、地域保健法という名称に改められています。この地域保健法により、都道府県や大阪、横浜、名古屋といった大都市、地方の都市や東京の23区などに保健所が設置されています。また、近年、市町村などでは「保健福祉事務所」、「福祉保健所」、「保健福祉センター」などといった名称で設置されています。保健所は法律によって義務付けられて、全国くまなく設置されている行政機関です。

保健所の目的・使命・役割

地域保健法にはっきり書かれていますが、地域住民の健康の維持及び増進と公衆衛生の向上及び増進を行うための行政機関ということです。簡単にいえば、地域の皆さんの健康づくりや衛生的な生活環境づくりのお手伝いをする機関です。 このように書くと、身近な親しみやすいもののように思われますが、そこはやはり行政機関ですから、「権力行政」といって、行政目的のためには、住民に命令義務を課してきます。時には罰則をもって臨んできます。このあたりが保健所という行政側と住民の一つの限界なのかもしれません。

保健所の主な業務

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保健所の業務は、先にあげた地域保健法により、大きく対人保健と対物保険に分けられます。 対人保健というのは一般的には、保健指導とか保健サービスといったものです。災害時、感染症、精神面のケアなど直接住民に対応するものです。 対物保健とは、住民の住居する地域を対象としたものです。生活衛生ともいいます。主なものに、食品衛生、獣医衛生、環境衛生、医事・薬事衛生があります。前述の「権力行政」により、強大な権限を持った食品衛生監視員などの職員による業務です。飲食、外食業界を対象とした業務の代表的なものです。 具体的な業務については、相当な種類と範囲ですので、飲食及び外食業界を対象としたものにスポットを当てて解説します。 大まかに分けると、許認可業務、行政指導、行政処分の3つになっています。

許認可業務

  • 調理師及び製菓衛生師免許交付手続き
  • 食品の製造、流通、調理、販売、給食施設などに対する営業許可や諸届出の受理

行政指導

  • 調理、製造、販売等の施設についての監視、指導
  • 屋台などのイベントの際における相談業務
  • 食品に対する苦情の受付業務
  • 学校や福祉施設などに対する衛生や栄養指導など

行政処分

  • 食中毒などの場合の原因調査
  • 一定の事由に該当する場合の免許停止、免許取り消しなどの処分
  • 一定の事由に該当する場合の営業停止、営業取り消しなどの処分

このような行政上の業務を遂行していくためには、どうしても「権力による行政」といった強い態度で臨まなくてはならないことがあるのも、仕方のないことなのかもしれません。 食中毒事故などに対しては、特に厳しい程度で臨んできます。徹底的な原因究明のため、一切の妥協が許されないからです。

もう何十年も前のことですが、筆者の街の中学で集団食中毒が発生したことがありました。原因は給食センターの調理だったため、生徒全員が感染してしまったのです。給食施設、スタッフの徹底的な原因究明は当然のこと、生徒全員、男女問わず制服を脱がされ、検体の検査を強制されるというものでした。その後、色々と問題になったのですが、それほど徹底した調査を行ったのです。昔は現在と違い、検体への配慮意識が低かったかもしれませんね。

また、一般的には、保健所、そして保健所の職員の皆さんは、日々の業務に専念しておられると思いますが、やはり職員も人の子、困った方もいるのです。 これもずいぶん古い話ですが、調理主任を任されていた時のことです。今だに思い出すと腹立たしく呆れてしまうような出来事がありました。開店準備の忙しい最中に電話が鳴り、出てみるといかにも話し方からして反社会的な人という印象です。しかし、よくよく話の内容を聞いてみると、営業許可書の更新について、保健所の担当者からだったのです。しばらく呆然として言葉がうまく出なかったのですが、それが気に入らなかったらしく、そこから2カ月近くにわたり、週1回開店前に来ては、ああでもない、こうでもないと言いがかりをつけてはオーナーを困らせていました。最後には「免許やるから取りに来い!」と捨て台詞を残して帰っていきました。

今の時代、さすがにこのようなことはないだろうと思っていましたが、これがあるのです。行政指導と称してお店をいじめている職員の方々もいるようです。 最近、法律や制度の改正、整備が行われ、このように正当な理由もなく国民や住民に対して横暴な対応をする行政機関や公務員については厳重に抗議できる制度ができたのです。また法律の話で恐縮ですが、皆さんにとって大いに役立つ制度ですので、覚えておいてください。

審査請求制度

行政不服審査法による審査請求制度が整備されました。これにより理不尽な処分をした公務員に対しては、直属の上司ではなく、大臣や知事といった最上級の方々へ報告がいき、原則審査が行われ、正当な理由があれば時に厳罰が下されるというものです。 弁護士や特定行政書士といった、行政の専門家に相談するなりして適正に活用したいものです。 色々と保健所や職員について厳しいことも述べてきましたが、本当に保健所や職員は頭が固く、融通が利かないのか、翻って私たち店側に原因はないのか、視点を変えてみることも大事なことです。

保健所の指導を仰ぐことで大きなリスクを予防する

null 保健所や職員の指導に対して無視したり、感情的になったり、のらりくらりとした対応に終始したりといったことが、結構多くの店で日常的に見られます。特に最近は、パート、アルバイトに外国人従業員のいるお店が多くなりました。文化の違いで、外国人のパート、アルバイトの方の中には、衛生観念の低い人がまだまだいます。また、日常何気なく行っている行為が、実は食品衛生上、大変危険なことも多々あるのです。

筆者の知人が勤めていた中国料理店で起きたことです。中国のコックさんはまな板を中華包丁で削って調理する習慣があるのですが、ある時その削りカスが生ものの前菜に混入し、集団食中毒を起こしてしまったことがありました。大阪の高級ホテルのレストランで起きた事故で、即、業務停止、たちまち信用は失墜してしまいました。 また、本人も気づかず体調不良になる「プチ食中毒」なるものも多いと聞きます。 こうしたことは、自分たちではなかなか気づくことができないものです。外部の人たちの指摘があって気づくということが多いのです。保健所やその職員は、まさにその役目を担っている人たちです。馴れ合いではなく、お互いの立場を理解することで、良好な関係が築けるのではないでしょうか。そして、保健所から食品衛生関連の受賞でも頂ければ、それがまたお店のイメージアップにつながることも期待できます。

現に筆者の行きつけの焼き鳥屋さんでは、長年、定期的に保健所の講習に参加し、指導をきちんと受けているため、店内にはいくつもの表彰状がかかっています。それがまたお店の評判をあげ、表通りからだいぶ奥まった二等立地にもかかわらず、地域一番の繁盛店となっています。

まとめ

解説してきたように、保健所というものは、時に煩わしい行政機関ではあります。しかし、店側にとっても役立つ存在であるという意識改革をすること、一方で自分たちの振る舞いを顧みるといった謙虚な気持ちになることが、最も大切なのではないでしょうか。互いに良好な関係から、さらに進んで連携、協力体制といった、より良い関係に発展していくよう、保健所と関わり合いを深めていきましょう。